認知症ケアの中に、「バリデーション療法」というものが存在します。

と疑問に思って検索からこの記事にたどり着いてくれた人もいると思います。
この記事では、「バリデーション療法とは」というお話をしていきます。
バリデーション療法には、「14のテクニック」と「8つの原則」がありますので、それらについて詳しくお話をしていきます。
この記事は次のような人に向けて書いています。
こんな方におすすめ
- 「バリデーション療法ってなに?」と思っている人
- バリデーション療法の技法について知りたい人
それでは詳しくみていきましょう。
「バリデーション療法」とはなにか
まずは、「バリデーション療法とは何か」ということについてお話をしていきます。
バリデーション療法とは、アルツハイマー型認知症の高齢者とコミュニケーションを取るためのツールです。
バリデーションという言葉が認知症ケアとして入ってきたのは「ナオミ・フェイル」というアメリカのソーシャルワーカーがきっかけです。
心理学の分野では古くから使われていたようです。
高齢者は、人生を全うする前にやり残していることを片付けようとしています。
バリデーション療法の基本としては、一生懸命に生活しているアルツハイマー型認知症の人に対して、尊厳と共感をもって関わることです。
バリデーション療法を行うことで、次の3つの効果が期待できるとされています。
ポイント
- 高齢者の心配事が減少する
- 遠慮がなくなってくる
- 自分自身を価値ある存在と思えるようになる
バリデーション療法を活用することで、「高齢者の心配事が減少する」「遠慮がなくなってくる」「自分自身を価値ある存在だと思えるようになる」という効果が期待できます。
バリデーション療法を活用して、今紹介したような3つの効果を得ることができると、高齢者が安心して落ち着いた生活ができるようになるということです。
「バリデーション」の言葉の意味
バリデート(Validate)は「承認する」という意味があります。
利用者をバリデーションするということは、ご利用者を「承認する」ということになります。
ご利用者が体験している目の前の事実を否定しないで、それが今の本人の現実であるってことを認めてあげましょうということですね。
バリデーションされた人の気持ちは「生きているんだ!!」という実感が生まれるそうです。
これは何も認知症ケアにおける話だけではないのかもしれません。
職場関係とか、友人関係とか、恋愛でもそうではないでしょうか。
他人に自分を認めてもらえる、承認してもらえることはとても嬉しいことです。
人間関係を良好に進めるためには、互いにバリデーションし合うことが大切なのかもしれないですね。
バリデーション療法の14のテクニック
バリデーション療法には、「14のテクニック」というものが存在します。
14のテクニックは次のような内容になっています。
ポイント
- センタリング
- 事実に基づいた言葉を使う
- リフレージング
- 極端な表現を使う
- 反対のことを想像する
- レミニシング
- アイコンタクトを使う
- 曖昧な表現を使う
- はっきりと低い優しい声で話す
- ミラーリング
- 満たされない人間的欲求と行動を結びつける
- 好きな感覚を用いる
- タッチング
- 音楽を使う
14個もテクニックがあるので「大変じゃん!」と思うかもしれませんが、1つ1つは心配するほどのものではありません。
それでは1つずつお話をしていきます。
たくさんあるので、気になるところから読んでいただいても構いません。
【1】センタリング
バリデーション療法の14のテクニックの1個目は「センタリング」です。
センタリングとは、「気持ちを落ち着かせて集中すること」です。
私たち支援者が「イライラ」等の感情を持ったままご利用者と接しようとするのは好ましくありません。
まずはセンタリングを実施して「自分の気持ちを落ち着かせる」ことで、ご利用者の気持ちを感じたり汲み取ったりといった寄り添うケアができるようになります。
センタリングをして自分自身の気持ちを落ち着かせることからバリデーション療法は始まっていきます。
【2】事実に基づいた言葉を使う
バリデーション療法の14のテクニックの2個目は「事実に基づいた言葉を使う」ということです。
認知症の人は、「なぜ自分がそのようなことをするのか」という根拠の部分に関心を持っていないと言われています。
認知症の人の感情に関する質問をするよりは、事実を確認するような質問をする方が効果的とされています。
つまり、「なぜ」という質問をするよりは、「誰が」「いつ」「どこで」といった質問をした方が良いということです。
たとえば、「私のお金が盗まれた」というご利用者がいた場合、「なぜそう思うのか」「なぜそのようなことが起きたのか」よりも、「誰が盗ったのか」「いつ盗られたのか」「どこで盗られたのか」という質問をして話を進めていく方が、ご利用者も落ち着きを取り戻すということです。
認知症の人の発言は、実際に起きていなくてもそれが真実です。
否定せず、肯定的に話を進めていくようにしましょう。
【3】リフレージング
バリデーション療法の14のテクニックの3個目は「リフレージング」です。
リフレージングとは、「本人の言うことを繰り返す」ということです。
認知症の人は、自分が言ったことを相手が繰り返すことで安心感を得ます。
繰り返すというのは、そのままそっくり言うことではありません。
たとえば、「私のお金が盗まれた」というご利用者に対して、「私のお金が盗まれた」とそのまま言い返すことはリフレージングではありません。
あくまでも支援者の発言として、「あなたのお金が盗まれたのですね」と言い返すということです。
この会話を繰り返していくことで、ご利用者は自分の言っていることが相手に伝わっていると安心して落ち着きを取り戻すことがあります。
【4】極端な表現を使う
バリデーション療法の14のテクニックの4個目は「極端な表現を使う」ということです。
極端な表現を使うとは、ご利用者が漏らす不平不満に対して極端な言い方を用いて返答するというものです。
たとえば「こんなもの食べられない」というご利用者に対して、「あなたが今まで食べたものの中で一番美味しくないのですね」といった感じです。
このように話をしていくことで、実はイライラした感情を誰かに聞いてもらいたいだけであったり、体調が悪いことを伝えたかったといったことが分かる場合があります。
【5】反対のことを想像する
バリデーション療法の14のテクニックの5個目は「反対のことを想像する」ということです。
反対のことを想像するとは、以前経験した辛い出来事から立ち直った方法を思い出話等を通して見つけ出すということです。
たとえば、夫を亡くして寂しい思いを強く持って生活してきた女性が、夜になると幻覚をみるということがあります。
「幻覚を見る」ということの反対を考えるということです。
つまり、「幻覚を見ないのはどういうときなのか」ということを突き詰めていきます。
そのご利用者に対して、「夫と過ごしていた夜はどうであったのか」「夫がいなくなってからはどのように夜を過ごしてきたのか」という思い出話をすることで安心して休める方法を見つけ出せることがあります。
このように、過去の経験から対処法を導いていくことが「反対のことを想像する」ということです。
【6】レミニシング
バリデーション療法の14のテクニックの6個目は「レミニシング」というものです。
レミニシングは、思い出話をするということです。
先ほどの「反対のことを想像する」でも少しレミニシングの話をしてしまいましたが、ご利用者に対して「あなたの今の状態は、以前からいつもそうであったのか」というような質問をしていきます。
レミニシングがうまくいくと、ご利用者が忘れていた過去の記憶を引っ張りだすことができます。
過去の記憶を呼び起こすことにより、解決策を見いだすことができるということです。
【7】アイコンタクトを使う
バリデーション療法の14のテクニックの7個目は「アイコンタクトを使う」ということです。
不安を抱えているご利用者にとって、職員からのアイコンタクトは安心を与える材料になります。
職員からご利用者に親密なアイコンタクトを送ることで、「自分は存在が認められている」と感じることがあるのです。
安心を得ることにより、先ほどまで徘徊をしていたご利用者が歩き回るのをやめるというケースもあるのです。
【8】曖昧な表現を使う
バリデーション療法の14のテクニックの8個目は「曖昧な表現を使う」というものです。
時々、認知症のご利用者が聞き取れないような言葉とも取れないような表現を使ってくることがありあす。
「今、何て言ったの?」と聞き返したくなることもあるとは思いますが、その場合は「彼」「それ」「何か」等の曖昧な表現を用いて返事をします。
ここで大切なのは、そのご利用者が何を言ったかを突き詰めることではなくて、「コミュニケーションを続ける」ということです。
何を言ったか分からないからとコミュニケーションをやめてしまうのではなく、「それが何か言ったの?」等と会話を続けていくことが大切です。
【9】はっきりと低い優しい声で話す
バリデーション療法の14のテクニックの9個目は「はっきりと低い優しい声で話す」というものです。
強い口調や高い声は、早口の話し方はご利用者を興奮させたり萎縮させたりすることがあります。
それを避けるためには、「はっきりと低い優しい声で話す」ことが大切です。
はっきりと低い優しい声で話すことで、ご利用者のストレスが軽減されることがあるのです。
【10】ミラーリング
バリデーション療法の14のテクニックの10個目は「ミラーリング」です。
ミラーリングは、簡単に言ってしまえばご利用者の動きの真似をするということです。
よく分からない動きまで真似する必要はありません。
たとえば、歩き回るとか、ニコッと笑ったとか、首を傾げたとか、そういった行動です。
鏡に映したように真似をすることからミラーリングと呼ばれます。
この方法は、そのご利用者の世界観に入ってみたいときに用います。
何でもかんでも真似をすれば良いということではないので注意が必要です。
【11】満たされない人間的欲求と行動を結びつける
バリデーション療法の14のテクニックの11個目は「満たされない人間的欲求と行動を結びつける」ということです。
人間には、様々な欲求があります。
ご利用者の行動には何かの欲求を満たそうとする行動かもしれないと考えるのです。
たとえばご利用者が物に固執している場合も、その物をすぐに取り上げてしまうのではなく、見守り、時には声をかけてご利用者の行動を見届けることが大切です。
その行動の先に、ご利用者が満たそうとしている人間的欲求がある可能性があります。
【12】好きな感覚を用いる
バリデーション療法の14のテクニックの12個目は「好きな感覚を用いる」ということです。
感覚とは、視覚や聴覚、嗅覚といった「五感」のことです。
視覚的な話をよくする人、聴覚的な話をよくする人といったように、ご利用者それぞれに好みの感覚があります。
もっと分かりやすくいえば、絵画等が好きでよく見に行った人は「視覚」、音楽が好きな人は「聴覚」といったことです。
ご利用者の好きな感覚を知っておくことで、その人の好きな感覚についての話や対応をすることで落ち着くことがあります。
【13】タッチング
バリデーション療法の14のテクニックの13個目は「タッチング」です。
認知症が進んでいく中で、視覚や聴覚の機能が落ちていくことがあります。
視覚や聴覚が衰えると、他の感覚を得ることが必要になります。
こういった状況でタッチングを使用してご利用者に触れることで他者の存在を感じられるようになります。
タッチングをするときは、後ろや横からいきなり触れるのではなく、正面から触れるようにしましょう。
中には、他者に触れられることをとても不快に感じる人もいます。
そのような人にはタッチングは得策とはいえませんので、別の対応を取るようにしましょう。
【14】音楽を使う
バリデーション療法の14のテクニックの14個目は「音楽を使う」ということです。
音楽のレクリエーションをしている施設ではよく見かける光景ですが、認知症が進んで生活に支障が出ている人でも、昔の歌をしっかり覚えていることがあります。
これが音楽を使うということです。
過去の色々なことを忘れてしまっていても、音楽を通してコミュニケーションを取っているとポッと昔の思い出を話してくれることがあるのです。
これが音楽を使うということの効果です。
バリデーション療法の8つの原則
ここからは、「バリデーション療法の8つの原則」についてお話をしていきます。
バリデーションには、次の8つの原則があります。
ポイント
- 個別性の原則
- 価値ある存在という原則
- 行動には理由があるという原則
- 色々な「変化」が行動に及ぼす影響があるとする原則
- 他人の行動は変えられないの原則
- 無条件の受容の原則
- やり残したことに対する思いがあるという原則
- 認知症の人を理解しようとする姿勢が大切という原則
このように、バリデーション療法には8つの原則があります。
1つずつもう少し詳しくみていきます。
【1】個別性の原則
バリデーション療法の1個目の原則は「個別性の原則」です。
バイスティックの7原則にもある個別性の原則です。
どのような人でもそれぞれに個性がある特別な存在ということです。
つまり、個別対応が大切であるということです。
【2】価値ある存在という原則
バリデーション療法の8つの原則の2個目は「価値ある存在という原則」です。
認知症になっていても、1人の人間として貴重な価値ある存在であることには変わりありません。
このことも絶対に忘れてはいけないですね。
【3】行動には理由があるという原則
バリデーション療法の8つの原則の3個目は「行動には理由があるという原則」です。
私たちは専門職であり、何事にも「エビデンス(科学的根拠)」が求められます。
私たちが理由や意味を持って行動しているのと同様に、認知症高齢者の行動にも必ず意味があるとされています。
その行動の意味をいかに観察、推測、確認できるかが私たちには求められています。
【4】色々な「変化」が行動に及ぼす影響があるとする原則
バリデーション療法の8つの原則の4個目は「色々な『変化』が行動に及ぼす影響があるとする原則」です。
高齢者になると、当然脳の機能も変化していきますが、それだけではありません。
身体的な変化や社会的な変化、精神的な変化といったように様々な変化が行動に影響を及ぼすことを知っておかないといけないですね。
変化が起きたときに、たとえば環境だけとか、個人だけとかに焦点をあてず、多角的な視点でケアすることが求められます。
【5】他人の行動は変えられないの原則
バリデーション療法の8つの原則の5個目は「他人の行動は変えられないの原則」です。
高齢者の習慣となってしまった行動を変えようと思っても変えられません。
過去と他人は変えられないけど、未来と自分は変えられるというやつですね。
高齢者本人が変わろうと思わないと、変えることは難しいことを私たちは認識しておく必要があります。
【6】無条件の受容の原則
バリデーションの8つの原則の6個目は「無条件の受容の原則」です。
どのような状況であっても、偏見を持つことはよくないですよね。
無条件で受容されることが大切です。
【7】やり残したことに対する思いがあるという原則
バリデーション療法の8つの原則の7個目は「やり残したことに対する思いがあるという原則」です。
自身の人生の課題として残っていることがあると、認知症になったときにBPSD(周辺症状)としてあらわれることがあります。
これは本人の心の中にある課題が原因となりますので、その課題を知ることが大切になってきます。
その方の生活歴や、職業、思考が鍵を握っている場合がありますね。
【8】認知症の人を理解しようとする姿勢が大切という原則
バリデーション療法の8つの原則の8個目は「認知症の人を理解しようとする姿勢が大切という原則」です。
介護をする上で、高齢者の生活歴を知ることは大切です。
生活歴を知るということは、次のようなことを知ることです。
ポイント
- どんな人なのか
- どんな生活をしてきたのか
- どんな考えを持っているのか
- どんなことに興味があるのか
- どんな経験があるのか
- どんな人と過ごしてきたのか
生活歴を知る理由は、そのご利用者に寄り添った介護をするためには、その人のことを知らなくてはいけないからです。
まとめ:バリデーション療法の14のテクニックと8つの原則を実践しよう
今回は「バリデーション療法とは|14のテクニックと8つの原則」ということでお話を進めてきました。
大切なことなので最後にまとめをしておきます。
まとめ
「バリデーション療法」とはなにか
- バリデーション療法とは、アルツハイマー型認知症の高齢者とコミュニケーションを取るためのツール
バリデーション療法の14のテクニック
- センタリング
- 事実に基づいた言葉を使う
- リフレージング
- 極端な表現を使う
- 反対のことを想像する
- レミニシング
- アイコンタクトを使う
- 曖昧な表現を使う
- はっきりと低い優しい声で話す
- ミラーリング
- 満たされない人間的欲求と行動を結びつける
- 好きな感覚を用いる
- タッチング
- 音楽を使う
バリデーション療法の8つの原則
- 個別性の原則
- 価値ある存在という原則
- 行動には理由があるという原則
- 色々な「変化」が行動に及ぼす影響があるとする原則
- 他人の行動は変えられないの原則
- 無条件の受容の原則
- やり残したことに対する思いがあるという原則
- 認知症の人を理解しようとする姿勢が大切という原則
バリデーション療法は、すべてのテクニックがすべてのご利用者に当てはまるということではありません。
実践することで見えてくることもあります。
今回紹介した内容を是非実践していただき、現場でご活用くださいね。
\参考文献です/
ぜひご活用ください!