介護の現場で働いていればほとんどの人が経験している「入浴介助」。
入浴介助をするにあたりどんなことに注意すれば良いと思いますか?
入浴というのは転倒や体調変化等、気をつけなくてはいけないことがたくさんあります。
そこで今回は、「入浴介助の注意点」についてお話をしていきます。
入浴介助のときに注意すべきことについて教科書的な内容を紹介しています。
この記事は、次のような人に向けて書いています。
こんな方におすすめ
- 入浴介助の注意点について知りたい人
- 新人介護士さんに入浴介助について説明したい人
それでは早速みていきましょう。
入浴介助の注意点【1】:ご利用者の尊厳と安全を守る
入浴介助の注意点の1つ目は「ご利用者の尊厳と安全を守る」ということです。
ご利用者の尊厳としては羞恥心への配慮になりますが、次の2つのようなものがあります。
ポイント
- 人前で裸になるという羞恥心への配慮
- 人に手伝ってもらうという羞恥心への配慮
どのような状態であっても、ご利用者には「人前で裸になるという羞恥心」「人に手伝ってもらうという羞恥心」があることを知っておいてください。
ご利用者の多くが気にしていないフリをしてみたり、「自分ではできないからしょうがない。感謝している」といったような言葉を言ったりすることもあります。
それでも、ほとんどの人が羞恥心を持ちながら私たちと関わっていることを知っておくようにしましょう。
また、脱衣室や浴室は濡れていたり石けんで滑ったりします。
転倒しないように十分に注意することが必要です。
入浴中の大事故といえば、「溺れる」ということです。
職員が目を離した一瞬で浴槽で溺れていたということが起こります。
浴室や脱衣室での事故は大事故に繋がる可能性が高いので細心の注意を払いましょう。
入浴介助の注意点【2】:ご利用者の健康状態を確認する
入浴介助をするときには、「ご利用者の健康状態を確認する」必要があります。
以下に挙げる状態にあるときは、入浴を中止するか主治医の指示を受けるようにしましょう。
ポイント
- 急性状態で発熱している
- 呼吸困難、過労、全身の衰弱状態
- 急性期の心疾患、肝疾患進行状態のリウマチ(rheumatoid arthritis)や結核(tuberculosts)
- 拡張期血圧200mmHg以上
- 脳血管障害(Cerebral Vascular Discorder ;CVD)や外傷の直後重症の内分泌疾患や貧血(anaemia)、出血性疾患
資料:柴田範子編『介護福祉士養成テキストブック⑥ 生活支援技術Ⅰ』
ミネルヴァ書房、2009年、167頁
入浴介助をする前には、血圧や体温を確認するバイタルサインの測定をしていることでしょう。
そういった数値的な健康状態や視覚的な健康状態を総合的に確認して中止にしたり主治医から指示を受けたりするようにしましょう。
入浴介助の注意点【3】:入浴前に注意すべき5つのポイント
入浴前に気をつけるべきポイントは次の5つです。
ポイント
- バイタルサインを確認する
- 空腹時や食後1時間以内の入浴は避ける
- 脱衣室と浴室の温度差は±2℃程度を保つ
- 湯温は40℃程度にする
- 必要な物品を準備しておく
この5つの注意点について補足をしていきます。
【1】バイタルサインを確認する
入浴前の1つ目の注意点は「バイタルサインを確認する」ということです。
主に、「血圧」「脈拍」「体温」を測定しましょう。
入浴中に体調不良を訴えるご利用者が出ることもあります。
まずは入浴前の健康状態を確認しておくことが必要です。
【2】空腹時や食後1時間以内の入浴は避ける
入浴前の2つ目の注意点は「空腹時や食後1時間以内の入浴は避ける」ということです。
食べてすぐは消化不良にもなり嘔吐したり体調不良を起こす原因となります。
空腹時も同様に体調不良を起こしやすいタイミングです。
つまり、食後1時間〜2時間経過してからの入浴が良いということになります。
【3】脱衣室と浴室の温度差は±2℃程度を保つ
入浴前の3つ目の注意点は「脱衣室と浴室の温度差は±2℃程度を保つ」ということです。
理由としては、脱衣室と浴室の温度差が大きいと「ヒートショック」を起こす可能性が高くなるからです。
ヒートショックとは?
ヒートショックとは、急激な温度差により血圧の大変動が起こり、失神や心筋梗塞、脳梗塞といった体調の急変を起こすことをいいます。
ヒートショックを起こさないためにも、脱衣室と浴室の温度差は±2℃程度になるように環境設定をしましょう。
【4】湯温は40℃程度にする
入浴前の4つ目の注意点は「湯温は40℃程度にする」ということです。
ありがちなのは、「冬だから42℃~43℃にしてしまおう!」というものですが、高温は身体への負担が大きくなり、リスクも大きくなるのでやめた方が良いでしょう。
実際に私の施設でも入浴後に意識消失をした人がいて、そのときの湯温が42℃でした。
ただし、冬場は湯船も冷えているため設定温度40℃でお湯を入れると、実際に溜まったときに37℃とかになることもあるので確認しながら調整を行うようにしましょう。
それならば設定温度を高くして浴槽にお湯を溜めて、ちょうど良い温度にすればよいのでは?という意見もありますが、正直いうとこれはなんとも言えません。
「ちょうど良いお湯の温度で溜める」ということで考えればOkですが、設定温度をそのままにしてしまい利用者に高温のお湯をかけてしまった…なんてことになれば当然事故となります。
なので、今回は教科書的な内容でお話していくということなので、ここではあまり推奨できません。
湯温が40℃になるように調整するということで覚えておいてください。
【5】必要な物品を準備しておく
入浴前の5つ目の注意点は「必要な物品を準備しておく」ということです。
具体的には、「入浴の道具は揃っているか」「着替えは準備してあるか」といったことですね。
事故としてよくあるのは、足りないものを取りに少し目を離した隙に溺れていたなんてこともあります。
その場から離れる必要がないように、しっかりと準備を行いましょう。
入浴介助の注意点【4】:入浴中に注意すべき7つのポイント
入浴中に注意すべきポイントは次の7つです。
ポイント
- 椅子を温めておく
- 職員の手で湯温を確認する
- 心臓から遠い足先や手先からお湯をかけていく
- 介助するときは職員やご利用者についている泡をしっかり流す
- 浮力で体が浮いてしまう場合はベルトの着用も検討
- 浴槽内は5分〜10分程度にする
- 皮膚の状態も観察する
では、入浴中の注意点についても補足していきます。
【1】椅子を温めておく
入浴中の1つ目の注意点は「椅子を温めておく」ということです。
椅子とは、シャワーチェアーやシャワーキャリー、リクライニングチェアーや機械浴等のご利用者が座るものすべてです。
ご自宅でも、特に冬場なんかはいきなり座ってヒヤっとするなんてこともありますよね。
もしかしたら、もう習慣となって無意識のうちに1度椅子を温めるということをしていませんか?
ご存知の通り、椅子にいきなり座ったらヒヤッとしますから、あらかじめ椅子を温めておくようにしましょう。
【2】職員の手で湯温を確認する
入浴中の2つ目の注意点は「職員の手で湯温を確認する」ということです。
ご利用者にシャワーをかけるときは、いきなりかけてはいけません。
先ほども言ったように、設定温度が高温になったままご利用者にかけて火傷を負わせてしまうということを防ぐことができます。
これは、高温に限らず低温にも言えることです。
いきなり冷水をかけてしまったら心臓にも負担がかかります。
まずは1度職員の手でしっかりと温度を確認してから利用者にかけるのが基本です。
【3】心臓から遠い足先や手先からお湯をかけていく
入浴中の3つ目の注意点は「心臓から遠い足先や手先からお湯をかけていく」ということです。
先ほど、「まずは職員が自分の手で湯温を確認してからご利用者にかけるようにしましょう」というお話をしました。
では、職員が直接自分の手で湯温を確認していればどこからでもかけて良いかというと、そういうことではないんですね。
まずは心臓から遠い足先や手先からかけていくようにしましょう。
これは、心臓へ負担をかけないようにするためです。
【4】介助するときは職員やご利用者についている泡をしっかり流す
入浴中の4つ目の注意点は「介助するときは職員やご利用者についている泡をしっかり流す」ということです。
これは、入浴中の事故として多い転倒や転落を防ぐためですね。
職員やご利用者についている泡はもちろん、床や椅子についている泡もしっかりと洗い流して安全を確保してから介助や誘導するようにしましょう。
【5】浮力で体が浮いてしまう場合はベルトの着用も検討
入浴中の5つ目の注意点は「浮力で体が浮いてしまう場合はベルトの着用も検討」ということです。
身体が洗い終わったら浴槽へと入っていくわけですが、浴槽では浮力が働きます。
リフト浴や機械浴の場合は、浮力により身体が浮いて危険を伴う場合があるのでベルトを着用しましょう。
【6】浴槽内は5分〜10分程度にする
入浴中の6つ目の注意点は「浴槽内は5分〜10分程度にする」ということです。
入浴は、思っているより心臓に負担がかかるものです。
何十分も浴槽に入っていることで心臓に大きな負担がかかり、血圧が上昇し過ぎてしまうというリスクもあります。
目安とされているのは5分〜10分です。
ご利用者からは「もっと入っていたい」という希望が聞かれることが多いですが、命を預かっている以上はご利用者にしっかりと説明をして進めていきましょう。
【7】皮膚の状態も観察する
入浴中の7つ目の注意点は「皮膚の状態も観察する」ということです。
入浴は、全身を見ることができる数少ない機会であるため、褥瘡ができていないかなど皮膚状態の観察にも努めましょう。
そのときも、あまりジロジロ見すぎて不快な思いを与えないような配慮が必要です。
入浴介助の注意点【5】:入浴後に注意すべき2つのポイント
入浴後に注意すべきポイントは次の2つです。
ポイント
- 体調不良を起こしていないか確認する
- 水分を摂ってもらう
それでは2つのポイントについて補足していきます。
【1】体調不良を起こしていないか確認する
入浴後の1つ目の注意点は「体調不良を起こしていないか確認する」ということです。
これは、入浴に限らず介助の基本ですが、介助の前後は体調確認をするということです。
介護福祉士の実技試験でもチェック項目になっているものですね。
入浴前にはバイタル測定や声かけで体調確認をし、入浴後も声かけや観察で体調不良を起こしてないか確認するようにしましょう。
【2】水分を摂ってもらう
入浴後の2つ目の注意点は「水分を摂ってもらう」ということです。
入浴前にも言えることですが、入浴後は特に水分摂取を促して水分を摂ってもらうようにしましょう。
入浴時は結構汗もかいていますので、脱水にならないように注意が必要です。
入浴介助の注意点【6】:感覚機能低下がある人を対応するときの2つのポイント
皮膚感覚や視力が低下しているような感覚機能が低下している人の入浴介助の注意点は次の2つです。
ポイント
- 火傷しないように温度管理をする
- 転倒しないように環境を整備する
身体に麻痺があったり、何かしらの原因で皮膚感覚が低下している人は温度を感じることができません。
そのため、「気が付いたら火傷をしていた!」なんてことも起こりえます。
皮膚感覚が低下している人への温度管理は火傷防止のために大切です。
また、視覚機能が低下しているの場合は床の泡で滑ってしまったり、椅子に引っかかったりと転倒するリスクがあります。
視覚機能が低下している人は、環境整備や誘導等、転倒防止が大切です。
入浴介助の注意点【7】:運動機能低下がある人を対応するときの2つのポイント
運動機能低下がある人を入浴介助するときのポイントは次の2つです。
ポイント
- 疲労状態の確認をする
- 自身でやってもらう工夫をする
運動機能が低下している人は、疲労感が出やすいので入浴中に声をかける等、疲労状態の確認が大切です。
また、出来るところはやっていただくと同時に、自助具を用いて自分でやっていただけるような工夫も大切です。
入浴介助の注意点【8】:認知機能低下がある人を対応するときの2つのポイント
認知機能の低下がある人を入浴介助するときのポイントは次の2つです。
ポイント
- 「入浴する」ということを認識してもらう
- 入浴したくないときは理由を考えてみる
認知機能が低下している人は、そもそも入浴すること自体が認識できていないことがあります。
入浴していると思っているのは職員だけで、利用者本人は入浴していると思っていない。
それが故に、思いもよらない事故が起こることもあります。
入浴するということを理解してもらうように心がけましょう。
また、入浴をしたくないというような言動があるときには、その理由を考えてみるという姿勢が大切です。
まとめ:入浴介助の注意点はご利用者1人1人で違う
今回は「入浴介助の注意点」についてお話をしてきました。
大切なことなので最後にまとめておきます。
まとめ
入浴介助の注意点【1】:ご利用者の尊厳と安全を守る
- 人前で裸になるという羞恥心への配慮
- 人に手伝ってもらうという羞恥心への配慮
入浴介助の注意点【2】:ご利用者の健康状態を確認する
- 急性状態で発熱している
- 呼吸困難、過労、全身の衰弱状態
- 急性期の心疾患、肝疾患進行状態のリウマチ(rheumatoid arthritis)や結核(tuberculosts)
- 拡張期血圧200mmHg以上
- 脳血管障害(Cerebral Vascular Discorder ;CVD)や外傷の直後重症の内分泌疾患や貧血(anaemia)、出血性疾患
入浴介助の注意点【3】:入浴前に注意すべき5つのポイント
- バイタルサインを確認する
- 空腹時や食後1時間以内の入浴は避ける
- 脱衣室と浴室の温度差は±2℃程度を保つ
- 湯温は40℃程度にする
- 必要な物品を準備しておく
入浴介助の注意点【4】:入浴中に注意すべき7つのポイント
- 椅子を温めておく
- 職員の手で湯温を確認する
- 心臓から遠い足先や手先からお湯をかけていく
- 介助するときは職員やご利用者についている泡をしっかり流す
- 浮力で体が浮いてしまう場合はベルトの着用も検討
- 浴槽内は5分〜10分程度にする
- 皮膚の状態も観察する
入浴介助の注意点【5】:入浴後に注意すべき2つのポイント
- 体調不良を起こしていないか確認する
- 水分を摂ってもらう
入浴介助の注意点【6】:感覚機能低下がある人を対応するときの2つのポイント
- 火傷しないように温度管理をする
- 転倒しないように環境を整備する
入浴介助の注意点【7】:運動機能低下がある人を対応するときの2つのポイント
- 疲労状態の確認をする
- 自身でやってもらう工夫をする
入浴介助の注意点【8】:認知機能低下がある人を対応するときの2つのポイント
- 「入浴する」ということを認識してもらう
- 入浴したくないときは理由を考えてみる
今回紹介したことは、教科書的な内容ですので介護職の入浴介助の基本です。
実際の業務の中では、基本通りにいかないことがあり、応用力を求められる場面がたくさんあります。
それでもまずは、しっかりと基本の考えを身につけておかないと、応用力もついていきません。
入浴介助の注意点の基本を身につけて、日頃のお仕事に役立たせてみてくださいね。
入浴介助の注意点を知った人は、「【新人介護職必見】入浴介助の目的を知って意味のあるケアをしよう」も合わせて読んでくださいね。
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【新人介護職必見】入浴介助の目的を知って意味のあるケアをしよう
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